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第9回 指導者養成から自分自身が学習者として発展する方略の習得へ : 自律的フィードバック者への発展を支援する


 

この後、しばらくは、インストラクターコンピテンシーの応用から、次第に患者安全な組織創りのための学習支援へと展開していく過程についてお話を進める予定です。

キーワードとしては、

 

1.指導者の在り方から学習者の在り方へ

2.自律的に学ぶ

3.振り返って学ぶ

4.組織を変える

 

があります。

 

指導者の在り方から学習者の在り方へ

 

ibstpiインストラクターコンピテンシー(IIC)に準じた指導者技能育成に焦点をおいて活動していたあるとき、「IIC 11: 効果的フィードバック」に付随するパフォーマンス記述として、「学習者のフィードバックの授受を支援する」という表現1に注目して学習者の在り方について考えを深める機会がありました。

 

最近では、学校で授業後に生徒が先生を評価することがあるように、指導者が学習者からのフィードバックを受ける機会を創る場面では、指導者も学習者の立場になります。

 

指導者といえば、通常、その教える内容・技能においては専門家・習熟者であることが一般的です。するとある指導者はその領域に関しては、日々の業務でモンダイを見いだすことが少なくなって、現状以上に学習する必要はないかとも感じられるかも知れません。そんな指導者にとって、学習支援を実践してみて、学習支援技能や教材、学習目標設定・評価などについて学習者からフィードバックを得ることは、指導者の立場でも学習者として発展するためのとても重要な契機になると改めて感じました。

 

 以前に私は、拙論で学習支援でのフィードバックには3要素、つまり「内省」、「変化」、「保証」があると示し2、学習見守り型(学習成果基盤型)フィードバックと名付けました3。指導者と学習者がいる場面でこの3要素は、

 

 1 指導者は学習者が内省を得るように促進する:学習者が実践した後に「あなたの状態は○です。」と伝えたり、シミュレーションで学習者にシナリオを実施してもらい、その出来映えについて指導者が話す、など。

 

 2 指導者は学習者の変化を支援する:学習者の実践と理想状態との差の分析を指導者が手伝う。学習者の練習の機会を指導者が与える。学習者の実践改善が促進する方略を指導者が選ぶ、など

 

 3 指導者は学習者の変化を保証する:学習者の実践改善を指導者が確認する場を創る。指導者は学習者がどの時期、どこで実践改善を確認するかを自分で決めて確認段階を実施するよう、促す、など。

 

となりますが、学習者単独の場面では、

 

1 学習者は、自ら内省を得る:自分の実践について、他者から批評を得る、自分で訓練の場に参加する、など。

 

 2 学習者は、自ら変化するために練り上げる:自分のその時点・立場での理想状態を適切に設定して、練習を繰り返す、など。

 

 3 学習者は、自ら実践改善を示す:自分の出来映えを他者に確認してもらう。現場で実践して自身で実践改善を確認する、など。

 

というフィードバック応用になります。

 

この気づき以前の私は、患者安全な医療者を育成するために指導者養成に力点を置いていましたが、より根本的な課題は、医療者がそれぞれに「自律的フィードバック者」技能を高めて、自律的に学べるよう、支援することではないかと考えるようになりました。指導者自身が、他者から学習支援されて指導者になる状況では、その指導者は、自律的に学んでいるかどうか保証がありません。その一方で、自律的に学ぶ人は、ある組織にいると、自身の学びのある段階からその組織が抱えるモンダイを解決するために自律的探究を始めます。その探究の一つに、組織での指導者になることも含まれます。

 

 短期的には、マニュアルに従って指導者を養成すれば、病院での心肺停止患者さんに対して質の高い心肺蘇生術を実施できる医療者が育つであろうと、私は思い込んでいましたが、もっと深いモンダイ、つまり、指導者自身が学習者として自律的に成長していなければ、いつまでも私たちは指導者養成を続けなければならないという矛盾に気づいたのです。

 

 それでは、次に自律的に学ぶという要素について考えてみましょう。

 

 

文献

1. 松本尚浩、ibstpi インストラクターコンピテンシー、医療職の能力開発;1:53-62,2011、篠原出版新社

2. 松本尚浩、インストラクターコンピテンシーの医療者教育への応用、医療職の能力開発;1:41-52,2011、篠原出版新社

3. 松本尚浩、医療者が学習や教育にフィードバック・デブリーフィングを役立てるために、医療職の能力開発;2:25-34,2013、篠原出版新社