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第10回 自立的な学習者への発展を手伝うには




自立的に学ぶ

 

前回は、ある医療者が「いつまでも指導され続けないと日々のモンダイを解決できない」というような状況を乗り越えるためには、指導者を増やすという解決策よりも、このような医療者が自律的に学ぶ医療者に発展するよう支援するほうが重要であることを示しました。

 

「じりつ」には「自律」や「自立」がありますが、ここでは両者に厳密な差をつけていません。

 

さて、今回は自立的に学ぶという話題について以下の3点、

 

1:学習者のさまざまな発達状態

 

2:学習内容や指導者技能を伝授するだけでない場を創る重要性

 

3:自律的学習者への発展を支援するには

 

についてまとめてみます。

 

学習者のさまざまな発達状態

 

私たちは生まれてすぐから、自分に起こる不快、例えば空腹や痛みなどを感じたとき、泣くと誰かが関わってくれて困ったことが解決するという体験から、自分のモンダイを解決する行動を身につけ始めるのでしょう。

 

またあるときテレビでみたギター演奏に感動し、そのような演奏がしたいと、ギターやギター教則本を得て、試行錯誤しながら、ギター演奏が上達するという体験から、自分で学ぶ過程を身につける例もあります。

 

このような体験を、自分が社会組織人になったときに応用できる個人は、自ら学ぶ学習者に発展するのはそれほど困難ではないと思われます。

 

しかし、別の種類の体験を積み重ねた方々もいます。例えば、学生の頃、決まった時刻に教室の机について座っていると、教師が現れて、教師が決めた内容の授業をして、決まった時刻で授業が終わり、試験を経て新しい学習内容を与えられました。学校を卒業したときに、「もう試験に追われることはない」と安心した一方で、試験がないので、学ぶ動機づけが困難になることもあります。

 

独り立ちして仕事ができるまでは、自分の失敗や他者からの指摘などを契機に、実践を改善できるように学びます。しかし、自分の失敗や他者からの指摘がなくなると、それ以上の実践改善を図ろうとしなくなります。

 

同じ社会人とはいっても、個人個人で、学ぶ行動や習慣はさまざまです。ある医療者は自ら学ぶ行動が身についているので、身の回りのモンダイを次第に解消していきますが、別の医療者は身の回りのモンダイがあることにも気づかない、あるいは気づいていてもそれを解消する行動をとりにくいことがあります。

 

これらの例でみるように、自ら学べるようになるには、自分に染みこんでいる学びの習慣の状況を把握して、自分の発展にとって何が壁になっているのかを分析する必要性が高い医療者も見受けられます。

 

学習内容や指導者技能を伝授するだけでない場を創る重要性

 

一般的な医療者は、社会人になってしばらくすると、自分の専門領域の知識・技術などを教える役目を負います。私の場合は、自分の持てる知識・技術を対象の方々へなんとかお伝えしようとするのに精一杯の場面が続きました。そしてあるとき、自分の教え方に改善の余地が大きいと気づき、教え方の基本を学び、教え方を伝える場を担当するようになりました。さらにはibstpiインストラクターコンピテンシー(IIC)18項目、特にIIC11の「効果的フィードバック」や、IIC9の「効果的ファシリテーション」(議論のしきり役)などからデブリーフィング(振り返り会話)の技能習得の場創りを体験するうちに、もっと重要なことに焦点をあてるようになりました[1]

 

つまり、学習内容を伝えたり、指導者を養成するだけではなく、私たちが抱えるモンダイ、つまり患者安全を確保する医療組織を創るには、医療者の多くが、この難問を少しでも解消しようと自律的に学ぶ学習者へと発展するように支援することの重要性です。

 

自律的学習者への発展を支援するには


 これまでに紹介したIIC 7「受講者が意欲的に、集中して学べるように働きかける」、IIC12「学んだ知識やスキルが持続するように働きかける」、IIC 13「学んだ知識やスキルが実際に使えるように働きかける」などの項目は、学習者の自立性の発展を支援するために用いるコンピテンシーの一部です[2]

 

これらを応用すれば、学習者が自ら動機づけを適切に調整して、学んだ知識・技能を保持しながら現場で応用するように、学習者を支援することのできる指導者を養成できるかもしれません。

 

ibstpiは最近、オンライン学習者のための「学習者コンピテンシー」を開発して、自律的な学習者養成を支援しています[3]

 

ここでの記述はオンライン学習の場を想定していますが、「コンピテンシー7:能動的な学習者である」のような記述は、教育場面にかかわらず応用可能と思われます。

 

職場での教育が実際に職場での何らかの改善に結びつくためには、学習者が自律的であることも重要ですが、学習者が学んだことを現場で活かすことができるように組織自体が学習者を支援することも重要です[4]

 

私がこれまで学んできた教授システム学のアプローチとは異なるアプローチで、自立的学習者への発展を促す記述もあります[5]

 

このようないくつかの知見をもとに、自立的学習者への発展を支える仕組みを医療者組織の中で構築して、組織内の学習が発展し、難問である医療者組織の患者安全パフォーマンス改善の一助になるよう努めたいと願っています。

 

 

文献

1. 松本尚浩、ibstpi インストラクターコンピテンシー、医療職の能力開発;1:53-62,2011、篠原出版新社

2. 松本尚浩、インストラクターコンピテンシーの医療者教育への応用、医療職の能力開発;1:41-52,2011、篠原出版新社

3. http://ibstpi.org/online-learner-competencies/

4. All Learning is Self-Directed, ISBN-13: 978-1562861339

5. 変革を生む研修のデザイン―仕事を教える人への活動理論、ISBN-13:

978-4902455243,この本は手に入れるのが難しくなっているので、以下のサイトもご参照ください。

http://learn-well.com/blogsekine/2011/05/post_341.html